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10周年記念講演 平成14年6月28日
越路大地の第四紀の変動から    −段丘研究の過去・現在・未来−
三島中学校 渡辺 秀男

A はじめに

段丘の研究は様々な分野で、多くの人たちにより行われています。段丘地形の幾何学的な美しさに魅せられて、海水面変動と段丘形成のロマンを求めて、気候変動の原因を探る糸口として・・・。
 段丘の研究については様々なアプローチがありますが、今回は段丘面の変形(段丘面の変位)から推理できる大地の変動についてお話します。

 各段丘面は形成時には、海水面もしくは河床面とは同じ高さです。やがて段丘面は変位し、海面や河床面よりずっと高い位置に上昇します。高い位置にあるのは面形成後、地盤が隆起したからです。段丘面の変位は、それができた時代から現在までの隆起量(変動量)を示しています。

段丘面変位が多くの研究者に注目されるのは、現在や未来の大地の変動を知る手がかりを提供するからです。段丘は階段状の地形で、高い位置にある段丘面ほど古い時代につくられたという考え(常識)があります。その考えをもとに、従来の研究では越路町地域では段丘が高位から越路原T・U面・V面、小粟田原面、潮音寺面(浦面)、沖積面(来迎寺面)に区分されています。
 1970〜80年代にかけて、越路町や小千谷市片貝の段丘分布域に大規模な露頭ができます。ここには段丘面とともに傾いた段丘堆積物が出現し、越路原U面と小粟田原面をつくる堆積物が連続することが分かりました。
 さらに、段丘面上の火山灰層の種類から、越路原U面と小粟田原面は9万年前につくられ同一面であることが明らかになりました。大地の変動により、段丘面は100m余りの高低差が生じ、2つの段丘面に見えるように変形したのです。

B 私の研究

越路町の段丘面変位と同じ特徴が、他地域でもあるのではないかと発想しました。そこで、信濃川流域の段丘面区分の再検討を、退職後始めようかと考えていました。ところが、依然として従来の段丘面区分をもとに、大地の変動が議論されていました。
 また、最近、いろいろな人が様々な方法で段丘面区分の再検討するようになっていました。人より遅れて発表したのでは、その成果は誰にも認めてもらえません。発明、発見と同じです。自然科学にも生存競争の厳しい一面があります。それで、私も本腰を入れて調査をすることにしました。

信濃川段丘群の段丘面と段丘堆積物層順

1 従来の段丘区分の再検討

ローム層中の火山灰(層)を時間軸として、信濃川流域の段丘面区分を始めました。その手段として使ったのが火山灰で、全域に分布する火山灰は12層です。これをもとに各地域の段丘面について、共通した時間軸で面区分を行いました。その結果、従来の区分とは異なる結果が得られました。
 図1は、従来の区分と私の結果がどう異なるかを示したものです。従来の段丘名をそのままで表しています。古い段丘面がそれより新しい段丘面より低い位置に分布していたり、従来3区分していた段丘面が同じ面であったりしています。段丘面の高低が面の新旧の目安にはなりません。従来の段丘面区分の考えには、どこでもいつでも同じ速度で、大地が隆起していたという考えがあったように思います。

2 火山灰の層序から見た段丘面区分

十日町盆地の川西、津南地域の段丘面区分について、従来と異なっている点を2、3紹介します。
(1) 川西町地域の段丘区分
 従来の研究では、高位から城山T・U面、上之山面、千手面、下原T・U面・根深面、石名坂面に区分されています。
・城山T面・城山U面・上之山面が同一の面であり、米原U段丘に 統一(対比)される。
・城山U面の一部が35万年前の谷上面に対比される。この面が15万年前や10万年前の米原U面や貝坂T面より低位に分布する。
(2) 津南町地域の段丘面区分
 従来の研究では、高位から谷上面、米原面、卯ノ木面、朴ノ木坂面、貝坂面、正面面、大割野T・U面に区分されています。
・朴ノ木坂面の一部が貝坂(U)面に対比される。
・卯ノ木面と米原面は異なる段丘面として区分されているが、同一の米原U面に対比される。

3 段丘面変位と基盤の地質構造 

再検討した段丘面区分の結果から、越路・川西・津南地域の段丘面変位と段丘基盤(魚沼層群)を見ると、そこには共通性が見えてきます(図2)。
(1) 基盤の地質構造は、(北)西翼が急傾斜・(南)東翼が緩傾斜で、非対称な向斜構造からなる。
(2) 西翼上の段丘面は比高が高く傾きが大きい。東翼上の面は比高が低く傾きが小さい。
(3) 向斜軸上の段丘面は凹地状の地形をつくり、そこには扇状地堆積物が分布する。
(4) (1)(2)(3)の結果から、向斜軸とほぼ平行な構造線(断層)が存在する。構造線を境界として、西側が相対的に上昇する断層運動により、段丘面は東側に大きく傾く。
(5) 基盤と段丘面の変形には類似性と累積性が認められ、段丘形成期以前から、同じ性質の隆起運動が継続している。

C 今後の研究の方向性

信濃川の段丘面の変形や基盤の構造は、信濃川流域の特殊なのもかどうか、確かめる必要があります。信濃川流域周辺の地形や地質の形態を見てみましょう。そこには、信濃川流域で見られる特徴との共通性が見えてきます。
(1) 北部フォッサマグナ地域の東西方向の地形・地質断面を見ると?
・基盤の西翼は急傾斜で東翼では緩傾斜である非対称な向斜構造からなる。これらの向斜構造が北北東−南南西方向をもち、複数の向斜構造が併走している。
(2) 信濃川流域の南北方向の地形・地質断面を見ると?
・新潟平野と東頸城丘陵の境界部では、西の丘陵側が隆起し東の平野側が沈降し、その境界部に断層が存在する。
・長野県北部では東の丘陵側と西の長野・飯山盆地の境界部に丘陵側が上昇する断層が存在する。
・日本海の海底地形においても西上がりの断層運動が認められ、西側の隆起帯と東側の低地帯を示す地形・地質構造が併走する。
(3) (1),(2)の共通性から
・日本海の海嶺(海底山脈)から東頸城丘陵(新潟平野、十日町盆 地)、長野県北部の隆起帯(飯山盆地、長野盆地)の縁に、北北西−南南東方向に延びる構造線が存在するのではないか?
・構造線は信濃川地震帯を含めた地震帯との関連性があるのではないか?
・この構造線と糸魚川・静岡構造線や新発田・小出構造線との関連はどうなっているか?
この課題を多くの人たちと団体研究を行って解決できたらと、夢想しています。

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