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シリーズ新潟の地震(15)
新潟の地震と活断層(2)

長岡大手高校 飯川 健勝

4.続被害地震の分布

信濃川地震帯に沿う地震活動
図1信濃川地震帯に沿う地震活動(大森1913を改編)

前回、高田地方地震帯・信濃川地震帯について ふれましたが、これは、今までに発生した地震の 分市地域です。いわば白地図の上に印をつけたに 過ぎません。それでも図1に示すとおり信濃川地 震帯では一つの規則性を読みとることができます。 信濃川地震帯(大森、1913)は、長野県大町 から粟島北方に発生した羽越佐渡地震(1833) までをも視野に入れた250kmにもおよぶ範囲 をさしています。さらに図において 角1角2角3 や 丸1丸2丸3  のように、2・3番の地震が、1番の 北方と南方でセットになって発生している事実が 指摘され、当時注目を浴びました。 その後も関原地震(1927)、「小干谷地震」 (1933)、長岡地震(1961)、新潟地震(1964)、 松代群発地震(1965)等が続き、上の指摘はさ らに正当性を増すことになりそうです。

5.作業仮説をたてる

こうした「事実」の整理と「指摘」は意義のあ ることですが、それ以上は望めません。根拠・理 由が示せないからです。そのためにはその地域の 地質学的・地形学的な背景を視野に入れる必要が あります。あわせてさらに広域的に検討をすすめ、 この事実と発生地域との間の相互の客観的な関連 性を見出す必要があります。

地震発生地域と相関の強い事実・現象は何か?
の一言に尽きます。

20数年ほど前のこと、地震・地殻変動などの 資料整理に関わり始めた頃のことです。「地殻変 動」という大それた用語とはうらはらに、具体的 に取り組む仕事は、mm単位の大地の動きを整理す るうっとうしい作業でさっぱり進みませんでした が、模索はしておりました。一方1970年ころ すでに、新潟地震(1964)の前兆現象となった、 県北・鼠ヶ関から新発田経由西蒲・岩室にいたる 国道8・9号線に沿う水準点変動グラフが公表さ れておりました(本紙第10号の水準点変動グラ フ参照)。それは衝撃的ともいえる説得カをもった グラフでした。それまで地図を作ることが主な目 的だった水準点測量が地震予知をも意図されるよ うになったのは、このグラフが契機といっても過 言ではありません。

私は、このような測地学的な変動に蕎手する前に、 渋海川をさかのぼる調査にかかわっておりまし たので、地層の摺曲構造から大地の変動を身近な 感覚でとらえることは十分できるつもりではお りました。しかしそれは100万年単位の感覚で あり、それは乗り物でいえば1万倍の速度比で すから、新幹線とカタツムリくらいでしょうか。 測地学的変動を取り扱うようになって、私自身 の時間感覚がリセットされたことは事実です。
丸1 小干谷市山本山周辺の水準点変動(垂直運 動)と地形の関係が整合性を持つこと、すなわち 10万年以降の平均的変動速度は、現在の水準点 変動とかわらないこと。 丸2 県内の三角点変動 (水平変動)にともなう歪の集積地域と被害地震 の発生地域がよく一致することに気づきました。 これは文字通り作業仮説の的中です。対象地域が 私自身の生活圏ですから、予感めいたものが的中 したのです。

その一方で次の予想は外れました。断層や地質 学的境界は正に破壊の痕跡そのものですが、地震 はそこでは、活発な動きは見えませんでした。後 に気づいたことですが、地震は第四紀の変動その ものであるという、当たり前のことだったのです。

6.作業仮説から普遍性を求めて

まず感覚が先行します。上の整合性を見た指摘が 小干谷・新潟県に限る特殊性なのか、普遍性・一 般性をもつものかについては徹底して地域を広 げ、データを積み上げる必要があります。すなわ ち、作業仮説の検証です。時間とエネルギーは要 しますが、意図と手法はすでに決まっています。

三角点測量の歪計算は、日本列島全域について 行った結果、98%の被害地震が的中しました。 そして干葉県東方沖地震(1986)は、予測が的中 したかにみえました。しかし、兵庫県南部地震 (1995)は、予測できませんでした。

あらためて、被害地震を200m間隔の等高線 の地形図に再整理してみました(図2)。思いの ほかすっきりとみえてきました。大きな山地もす っきりと見えてきます。そしてその周辺部に、あ たかも山地を取り囲むように地震が配列してい ます。見方によっては盆地の縁辺部と言ってもよ いでしょう。山地の内部にはほとんど発生してい ません。

北陸の両白山地、東海の赤石山脈の南縁そして 越後山脈の周辺部などはその典型です。前述の信 濃川地震帯や高田地方地震帯もこの指摘で再整 理されることになります。やはり、山地は現在な おブロック状のまま隆起運動を継続しているの です。ブロック同士がひしめき合う地形の境界部 に地震発生は当然のことだったのです(つづ<)。

本州中央部の被害地震と地形との関係(ネオクトニクス研究会,1995に加筆)
図2本州中央部の被害地震と地形との関係(ネオクトニクス研究会,1995に加筆)
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